比岸の色(※)

無機質な清潔を悉く破砕した鮮やかさに目街がした。
入り乱れる足音も叫びも、微妙な均衡を保ったその現実を崩したりはできないと思えるほどに。
凄烈で単純。
意志など、どこにもない。
破壊だけが支配する純粋な空間。
赤----それは証の色。
みっともない呻きが身体を震わせた。
誰の嘆きかとぼんやり思っていた。
食いしばった歯を鳴らし、咽喉を強張らせ、まるで獣じゃあないのか。
深く、身体の奥底から沸き上がる低いその慟哭が、自分の咽喉から出ている声だと気付いたのは随分と経っていた。
手を伸ばしていた。
何をするつもりだったのかなど、覚えてはいない。
足を踏み出していた。その肩を、腕を、抑えつけられ、崩折れた。
泣いた----ように思う。
顔を覆って声を上げた。
この塩辛い液体が枯れ果てた時、全てが幻と消えているのではないか、と。

一縷の望みを叶えてくれるものなど、この世にはいない

そう教えてくれた色。
この惨状を前に真実はひとつだった。







End

20070412

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