シャッターを押す理由

「写真撮るの好きなんだね」

 朗らかな言葉に手が止まる。
 傍目には確かにそう見えるかな。口実を見つけてはデジタルカメラを取り出して、笑って笑って、と馬鹿みたいに連呼しているんだし。
 ま、嫌いじゃないんだけど。

 まさか色々目的があっての、ついで、とは今更言い出せなくなっていたんだ。

「この才能埋もれさせとくのもったいなくない?」
「そういうの詳しくないから」
「ノリわるぅー! あなたの腕は最高だ、とか言っとくもんじゃねぇか」

 覗き込めば困った色を浮かべて反らされる朗らかな瞳。
 楽しそうに笑う声。
 無意識に指がシャッターを切る。
 照れ臭そうな顔、困惑した顔。どこまでも続く見慣れた風景もうっすらと射し恵む陽光にそれなりに見えてしまう----いや、そう撮りたいと願ったんだ。
 小さな液晶画面が示すのは、思いと一緒に封じ込めた刹那。 こういうものばかりを、本当はこんな些細な光景だけを撮っていければ良かったのに。

「うわぁ仏頂面」
「おーサイコウ!」
「撮り直してよ!」
「そこそこの被写体がエラソウに言うか」
「うるさい! へっぽこ!」

 そうふくれているところへカメラを構えれば、今度は本当に睨まれた。
 おどけた素振りで両手を上げれば、あかんべぇと舌を出されて背を向けられた。

 笑い声に包まれる。
 だからまた、指がシャッターを切っていた。

 こういうものばかりを遺して逝きたいんだ。







End

20070412

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