すれちがい
「あの人がわからない……」
促されるまま、漸く吐き出せた思い。
そうね、と呟かれ、首を振った。
「わかることも、あります。だってもうずっと一緒にいるんだし」
膝に置いた手が震えていた。
握り締めて、堪えた。
あの人の考えることを推察するのは、ある意味で容易い。良く言えば素直、そうでなければ単純な、理論と思考と理由の持ち主。
だからとても優しい顔を見せる。それは、大切、という思いの最もストレートな表現方法。
柔らかで心地好く、くすぐったい気持ち。呆れるくらいの無償の誠心。その一方で、負の感覚を持ち合わせていないかのように振舞うから。
それがどうしても我慢出来なくなった。
信じられるわけがない。
明け透けな気持ちを疑うくらいに様々なものを持て余して。それを不快に思うから、苛立ち、目を逸らす為に醜さを押し付けても。
笑って受け流す。
そういう春風みたいなところを好きになった。
けれどいつしか、望んだはずの態度に、息が詰まられる自分を見つけ出してしまっていて。
優しさだけを求めた幼き時期は、疾うに過ぎていた。
時に悲しみが欲しい。
愛しむだけの存在じゃないのだと。
甘やかだけではない、痛みを。
自分という存在が、その心を揺るがすのだと確認させて欲しかった。
「それって、わがままだったのかな」
「わからないわ」
あの人じゃあないんだもの----小さな苦い笑いに、私もただ微笑むしかなかった。
End
促されるまま、漸く吐き出せた思い。
そうね、と呟かれ、首を振った。
「わかることも、あります。だってもうずっと一緒にいるんだし」
膝に置いた手が震えていた。
握り締めて、堪えた。
あの人の考えることを推察するのは、ある意味で容易い。良く言えば素直、そうでなければ単純な、理論と思考と理由の持ち主。
だからとても優しい顔を見せる。それは、大切、という思いの最もストレートな表現方法。
柔らかで心地好く、くすぐったい気持ち。呆れるくらいの無償の誠心。その一方で、負の感覚を持ち合わせていないかのように振舞うから。
それがどうしても我慢出来なくなった。
信じられるわけがない。
明け透けな気持ちを疑うくらいに様々なものを持て余して。それを不快に思うから、苛立ち、目を逸らす為に醜さを押し付けても。
笑って受け流す。
そういう春風みたいなところを好きになった。
けれどいつしか、望んだはずの態度に、息が詰まられる自分を見つけ出してしまっていて。
優しさだけを求めた幼き時期は、疾うに過ぎていた。
時に悲しみが欲しい。
愛しむだけの存在じゃないのだと。
甘やかだけではない、痛みを。
自分という存在が、その心を揺るがすのだと確認させて欲しかった。
「それって、わがままだったのかな」
「わからないわ」
あの人じゃあないんだもの----小さな苦い笑いに、私もただ微笑むしかなかった。
End
20070412