めまい

なあ、
オレは上手に笑えてる?













 眼を覚ました時の違和感にぞっとした。

 ぬくもりの消えたシーツ
 誰もいない傍ら
 闇の中手探りで探す

 それが勘違いだとすぐに気付いたけれど。
 いくら求めても、抱き締めてくれる腕はない。
 ほんの少しの時間だけの独りきり。
 それを忘れていたことに少し驚いただけ。
 ベッドに入る前、したたかに酒を呑み、朝までぐっすり眠れると思っていた分だけ過剰だった。
 まさかこんな真夜中に目を覚ますなんて思いもしなかった。
 咽喉が渇いたせいだろうか。
 水でも飲み直せばマシかと、ベッドを降りかけ、疲れた息を吐く。
 未だに足元が危うい。慣れない水割りを浴びたのが、そもそもの間違いだった。
 1人で帰らなきゃならない日に限って無茶をしてしまう。 自分の馬鹿さ加減だと判っていても。
 止められない。
 今更のように思い出した醜態に、むっつりとベッドに沈みこんでいるのが辛くて。
 どうにか立ち上がるきっかけを探した。
 こんな時に思う。
 喫煙の習慣があれば、気を紛らわせる手間もない。愛煙家の買い置きを思い出したが、それはリビングへ行ってからの話。結局は我が身で歩け、だ。

 液晶パネルの仄かな光。
 覚束無い足取りに恐々と寝室を出た。




 ペットボトルを一息に半分ほど開けて、自分がどれほどに渇いていたのかを知った。
 だらしなく座り込んだソファから見上げた、暗い天井。隙間の光に何かが影を伸ばし、揺れ動いている。
 音の無い、静かな、こんな空間に1人で居るのは辛かった。
 唯の影にさえ、ゆらめきの中に、何かが見える。
 そんな気がしてならないのだ。
 だがそれは錯覚。自身の、愚かさの投影。

 酷く恐い。
 もたれかかる背中があるという、ことが。
 いつしか自分の足で立つことを止めてしまうだろうから。
 渇いた足元のこの危うさに気付いている。

 やまない慈雨は、優しい声。
 無限に与えられ続けるもの。

 例えば、そう。
 包み隠した綺麗な言葉を云えなくなったとしても。

 雨はやまない。


 ふっと流れを変えた部屋の空気に引き摺られ、意識が混濁する。
 転がり落ちたペットボトルの行方をぼんやり思い浮かべながら、手を、伸ばした。
 高い天井に影が躍る。
 わずかに差し込む、その微かな光にさえそれは眩く映っていた。

「おかえり」




 手にしたものの眩さに、眼が、眩む。
 あまりに眩しく、
 痛くて。

 それなのに泣くこともできない。

   だから、せめて----

 上手に笑っていたいんだ。







End

20070412
後記:とある歌の話。自己リメイク

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