そんな後ろ姿が好き

 小鳥のさえずる、木もれ日の暖かさ。
 外に出ようと誘った理由を、肌に触れる穏やかな風に見い出すだけの感性は持っているのだと、ひとまずは安心した。
 しかしどうしても納得出来ないらしい。今だありありと浮かぶ表情がその証拠だった。
 少し後ろを歩く彼にとって、片手に提げた藤のバスケットなど、ファッションスタイルを演出する範囲外の代物だ。ましてその中味は、ホットコーヒーを入れたありふれたステンレスの水筒、ランチボックスのサンドウィッチ、フルーツデザートである。
「……ピクニックをしようってわけじゃないよな?」
 往生際の悪い質問に、苦笑を飲み込んだ。
「あなたも好きでしょ、外での食事」
「アウトドアは嫌い」
 歩調を緩めて並んでみても憮然としたまま。
「今日は唯のピクニックよ」
「そういう話じゃないだろ」
「やっぱり、帰りましょうか?」
 来た道を振り返るように足を止め、返事を待つ。
 高い位置から同じ方向を見返した視線は何も言わずに戻されて。
 そして黙って歩き出す。
 だから黙って追いかけた。







End

20070412

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