「ごめんなさい」

 舗装状態の良くない道。
 うるさく揺れる路線バス。
 緑の木々が遠くまで望める車外の風景。

 懐かしい、と。ふっと思い出し、私は口の端を歪めていた。
 ほんの数時間前までは凄まじい喧騒の中で寝て起きて、毎日を何食わぬ顔で過ごしていたはずなのに。過去を優しく思う暇を惜しむよう、ただ足早に。
 そのせいだろう。
 良い機会だと言われた。

 昨夜。
 自分でも、どうしようもない激憤に駆られた心は、あの街で最初に手を差し伸べてくれた人に、何を求めたのだろう。
 労わり、慰め、励まし、哀れみ。
 そのどれでもあったようで、そのどれをも拒絶した。
 でもひとつだけ確かな事は、今こうして一人で街を離れた事実と、冷めぬ気持ち。
 まとめられない言葉を根気強く聞いてくれる相手に、本当に何のつもりでより以上の弱さを露呈しようとしていたのか。
 自分でも呆れ果てた行動だった。
 何から、何まで。
 溢れさせた言葉を、思いを、取り返す方法があるなんて、これっぽっちも信じていないのに。

 バスは相変わらずの路を走り、慣れた表情をひとつ、またひとつ、目的の場所に置いていく。
 窓の外はもうずっと緑が続き、私はただ振動の酷さに顔をしかめていた。







End

20070412

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