迷う人

 ドアの開いた気配に目が覚めた。
 けれど----
 無遠慮に髪を撫でるだけで黙っている。
 何を考えているのかと呆れた。
「おい、」
 それならばと、背を向けたまま出したぶっきらぼうな声に、微かな安堵が伝わってきた。
「ごめん。起こすつもりは、」
「うっせえ。だったら触んな」
「だから、ごめんね」
 確信的行動。
 起きてくれと言えばそれで済むだろうに。
 起きてくれと、たった一言。
 そうすれば、もっと優しい言葉をかけてやるのだが。
「他に言うことは?」
「……ただいま」
 促さなければ先を続けられない年でもないくせに。
 思い切り溜め息を衝いてから、仕方なく身体を起こした。







20070412

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