それが困る

 覆い茂る緑を掻き分ける。
 毎日の繰り返しでそれなりの空隙が、それこそ獣道のように開けてはいるが、面倒臭いことに変わりはない。手入れをしたらどうかと思う。けれどそう進言する度に、笑うばかりで取り合ってくれなかった。
 ガサガサ喧しい葉音を響かせ、やっと辿り着けば先客が居た。
 長椅子に行儀悪く胡座をかき、その膝に大判の本を開いて読書中。ちらっと覗いた限り、羅列された文字は日本語ではない。また何を読んでいるのかと、その頭の中味にはうんざりする。
「挨拶くらいしたらどうだ」
 用意された茶器に手を伸ばした途端だ。
 熱中するあまり気付いていないだろうなどと、思ったわけではないが。関心の素振りさえ見せなかったのはそっちじゃないのかと、憮然と眼を上げた。
「……おはよう」
「妥当なところだな。とっくに昼は過ぎているけれど」
 頬杖をつき、皮肉な笑みを浮かべて次を待つ姿に小さな息を吐き、
「んだよ、機嫌悪いな」
「当り前だ」
 こんな時ばかりストレートな物言い。
 昨日遅く、もう既に今日という時間になってから、携帯に入って来た無愛想なメールも、そうすればいいのだ。
『 昼前に戻る 』
 それまでに戻ればいいのか、待ち合わせでもした気なのか。お互いの生活で一行メールほど困る連絡はないと、判っている。
 まして昼前という頃合いに予定があったのだ。そんなこと、返信したりもしなかったが。
「早く終わって良かったな」
 事実を言っただけなのに、細い肩がぴくりと反応した。







20070412

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